ジョーダン・ヘンダーソン
2019年6月1日、ワンダ・メトロポリターノで高々とビッグイヤーを掲げたのは、不屈の男ジョーダン・ヘンダーソンだった。
誰もが認める欧州王者のキャプテンとして14年ぶりのチャンピオンズリーグ(CL)優勝を経験したイングランド代表MFだが、リヴァプールでのキャリアは決して順風満帆ではなかった。
2011年にサンダーランドから推定移籍金2000万ポンドで加入したヘンダーソンだったが、最初の1,2シーズンは周囲からの期待に応えることができなかった。サンダーランド時代からキック精度には定評があったが、適性ポジションが定まらず、突出した特長もなし。平均的かつ器用貧乏という印象もあり、一部メディアからは失敗の補強の烙印も押された。
一時は売却候補にも挙げられてリヴァプールでのキャリアが崖っぷちとなったヘンダーソンだが、このクラブで力を証明することにこだわり、弛まぬ努力で自身のパフォーマンス改善に取り組んだ。すると、当初はヘンダーソンへの評価が低かったブレンダン・ロジャーズ監督の信頼を徐々に勝ち取り、2013-14シーズンにはリーグ2位に奮闘したチームで欠かせない存在として35試合に出場。4ゴール7アシストをマークすると、翌シーズンにもリーグ戦37試合で6ゴール10アシストと好成績を残した。
クラブ内外で評価を高めたヘンダーソン。2014-15シーズンに副キャプテンに就任すると、スティーブン・ジェラードが退団した翌シーズンからはキャプテンに指名された。さらに責任を背負うことになったヘンダーソンだが、一貫性あるパフォーマンスに加えて、よりチームを鼓舞する献身的な姿勢を見せるようになり、完全にレジェンドへの道を歩み始めた。
2015年10月に就任後、リヴァプールに大きな変化をもたらしたユルゲン・クロップ監督も、ヘンダーソンには絶大な信頼を寄せた。“ジェラードの後継者”という大きなプレッシャー、そしてクロップ監督の下で常勝軍団になる中で大物ライバルが加入してきても、ヘンダーソンは研鑽を積み、重要な存在であり続けた。
2017-18シーズンのCL決勝ではレアル・マドリードを前に惜しくも涙を呑んだが、翌シーズンにはトッテナムとの同国対決を制し、リヴァプール加入後初のビッグタイトルを獲得。彼がどれだけ素晴らしい仕事を成し遂げてきのたかは、クロップ監督がCL決勝後に熱弁したコメントが全てを物語っている。
「もしヘンドの本を執筆するなら500ページになる。サッカー界のここ500年の歴史で最も困難な仕事は、スティーブン・ジェラードの後任を務めること。人々はどうしても『スティービーじゃなければ十分じゃない』というのが心のどこかにあった。しかし、彼は見事に対処してみせた。本当に誇りに思うべきなんだ」
戦力外に近い扱いからクラブ屈指のレジェンドへ――。2019-20シーズンのリーグ戦が再開され、プレミアリーグ創設以降初めてリヴァプールの主将がトロフィーを掲げるというジェラードも成し遂げなかった仕事を果たした、ヘンダーソンはサポーターにとってさらに偉大な存在として心に刻まれる。
プレースタイル
ビルドアップからファイナルサードでの崩しまで、クオリティの高いプレーで貢献するボールプレーヤー。相手の裏を取る上半身の揺さぶりを交えたトラップやターンが得意で、厳しいプレッシャーをモノともしない。 イングランドのアンダー世代やサンダーランド時代は右サイドハーフや左サイドハーフも務めていたが、トップレベルで才能が花開いたのはセントラルMFとしてのポジション。もともとの持ち味であったキック精度だけでなく、試合を俯瞰する能力やスタミナ、ゲームメーク力が大きくレベルアップしたことで、中央が彼のベストポジションとなった。名門のキャプテンらしく気持ちのこもった熱いプレーを前面に押し出すものの、冷静さは失わず、常にチームを第一に考える献身性も傑出している。2019-20シーズンには、主戦場としているインサイドハーフだけでなく、ファビーニョ負傷時にアンカーもそつなくこなすなど、そのキャリアの中でプレーの幅を広げ続けている柔軟性も素晴らしい。